亀次郎の予備試験記録部屋

令和元年(2019年)の予備試験の受験記録、再現答案、勉強方法についての備忘録

令和元年(2019年) 予備試験 民事訴訟法 再現答案

 
第1設問1
1 まず、訴訟係属は、二当事者対立構造の生じる訴状送達時に生じると解される。また、訴訟の当事者は、訴状の記載の一切を合理的に解釈して確定するところ、本件では、X1、X2及びYが当事者であると思われる。とすれば、本件では、訴状送達時には当事者たるX1は既に死亡していたというのであるから、X1とYの間の訴訟は適法に係属したものとは言えず、不適法なものとして却下される(民事訴訟法(以下略)140条)のが原則である。Yの主張はこれをいうものと解される。
2 では、X2側としてはどのように対応するべきか。
(1)この点、まず、124条1項1号を類推適用して、X1の唯一の相続人であるAに訴訟が当然承継されると主張することが考えられる。しかし、同条2項は、訴訟代理人のいる場合に、1項の規定の適用を排除しているところ、本件では、弁護士Lという訴訟代理人がいることから、124条1項1号を類推することが認められない可能性が高い。
(2)そこで、X2は、X1から、X1死亡前に、訴訟担当の合意があったと主張することが考えられる。
ア まず、明文ある任意的訴訟担当である選定当事者(30条1項)の合意があったと主張し得る。
 この点、X1らは共同してYから甲土地を購入しており、「共同の利益を有する」といえる。また、X1らは社団でないから「前条の規定に該当しない」「多数の者」といえる。そして、X1はX2に訴訟への対応を任せているから「原告」となるべき「一人」を「選定」したものといえる。よって認められる。
イ 仮に上記が認められないとしても、明文なき任意的訴訟担当が認められると主張する。
 この点、たしかに、訴訟委任は原則として弁護士に限定されている(54条)上、訴訟信託は禁止されている(信託法10条)。しかし、これらが禁止される趣旨は、当事者の利益を保護する点にある。そこで、この趣旨を潜脱しない場合で、これを認める合理的理由がある場合には、これを認めるべきであると解する。具体的には、①訴訟追行を含む包括的な委任があり、②訴訟の対象となる権利関係について本人と同程度以上の知見を有する場合には真摯な訴訟追行が期待できるからこれを認めるべきである。
 本件では、X1はX2に対して訴訟への対応を任せることとしており、訴訟追行を含む包括的委任があったといえる(①充足)。さらに、X2はX1の娘Aの夫であり、X1がその事業を引き継がせようとしていた者であるから、自宅兼店舗を建築する予定の甲土地の売買という本件訴訟の対象である権利関係についてX1と同等又はそれ以上の知見を有しているといえる(②充足)。よって、明文なき任意的訴訟担当も認められる。
 
第2設問2
 既判力は判決の「主文」に対応する部分につき生じる(114条1項)。よって前訴の後訴への拘束力たる既判力は、X1らがYに対する甲土地について移転登記請求権を有するという点について生じるのが原則である。X1らY間の売買契約の存否については、理由中の判断に過ぎず既判力は原則として及ばないのである。また、既判力は、前訴の当事者(115条1項1号)や、口頭弁論終結後の承継人(115条1項3号)などの人にのみ及び、口頭弁論終結前の承継人であるZに対しては、既判力は及ばないのが原則である。
 この点、既判力の趣旨は、紛争の不当な蒸返しの防止にあり、また、その根拠は手続保障を尽くしたことに基づく自己責任にある。とすれば、紛争の不当な蒸返しを防止する必要があり(①)、かつ、前訴において十分な手続き保障があったといえる場合(②)には、既判力の拡張を認めるべきである。
 まず、客観的範囲について、本件では、前訴においては、X1らY間の甲土地の売買契約の成否は唯一の争点として争われたのであって、この点についてBは主張立証を尽くしたものと考えられるから、前訴における手続保障は十分になされたものといえる(②充足)。また、この売買契約の成否を再度争えるとすると、X1らに何度も同様の訴訟に応じる負担を課すことになり、不当であるから、紛争の不当な蒸返しを防ぐ必要もある(①充足)。よって、X1らY間の甲土地売買契約の成否についても既判力は及ぶ。
 次に、主観的範囲について、Zは、Bと通謀して甲土地の強制執行を免れる目的の贈与によって甲土地を取得している。このような不法な目的で甲土地を取得したZに対しては、個別に手続保障をする必要がない。仮にあるとしても、前訴におけるBによる代替的な手続き保障が及んでいると解するべきである(②充足)。また、上記と同様に紛争の不当な蒸返しを防止する必要も認められる(①充足)。よって、前訴の既判力はZにも及ぶ。
 以上から、Zの主張は、既判力に抵触し、排斥されるべきである。
以上