令和元年(2019年) 予備試験 刑事実務基礎 再現答案
刑事実務基礎
第1設問1
刑事訴訟法(以下略)207条1項の準用する81条の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由」の判断は、罪証隠滅の①対象②態様③客観的可能性④主観的可能性を考慮してなされる。
まず、Aは、交際相手やその友人に対して(①)、犯行日時における真実と異なるアリバイを証言するように頼む方法により(②)罪証隠滅を図ることが考えられる。そして、Aのアリバイが証言されれば、その証言通りに事実認定される恐れもあり、客観的可能性はある(③)。さらに、AはBに対して送ったメールにおいて「誰かに頼んで一緒にいたことにしてもらうのは?」と書いていること、および、Aは本件被疑事実を否認していることから、Aには、これらの者にうそのアリバイを証言するように働きかける主観的可能性も認められる(④)。
よって、罪証隠滅のおそれが認められる。
第2設問2
直接証拠とは、犯罪の主要事実を直接証明する証拠をいう。
Aについて たしかに、Wは2人の男が本件被疑事実にあたる行為をするのを目撃していた。しかし、Wはその犯行を行ったのがAであるかはキャップのつばで隠れており、顔を見ることができなかったためわかっていない。よって、Aの犯人性について、この証言から直接証明することはできない。したがって、直接証拠には当たらない。
検察官の推認過程について、証拠⑤には、犯行日時の10分前という近接した時間に、犯行現場から100mしか離れていない近接した場所にあるコンビニエンスストアの防犯カメラに、黒色のキャップと両腕にアルファベットが書かれた赤色のジャンパーを着た男と、茶髪で黒色のダウンジャケットを着た男という、Wの証言における犯人の服装と同じ服装の二人組がうつっていた。そして、免許証から黒色キャップの男はAであり、茶髪の男はBであることがわかっている。これと③のWのBにかかる証言を合わせれば、本件被疑事実の犯行時にBとともにいた黒色キャップの男がAであることが推認される。よって、Aが暴行をしたものと推認できる。
Bについて、 Wは、Bについては、その犯行の一部始終を見ており、かつ、街灯の明かりが明るかったことから20枚もの候補写真の中から任意にBの写真を選ぶことができるほど確実に犯人がBであることを現認していた。これによって、Bの犯罪事実、犯人性は直接証明されるからWの証言は直接証拠となる。
第3設問3
「傘の先端でその腹部を2回突いた」ことについて
この点、たしかに、AはVの腹部に傘先を当ててしまった。しかし、これは、歩いていたところをVに突然肩をつかまれたことに驚いて振り返ったところ、偶然にあたってしまったものであって、暴行の故意(刑法38条1項)はない。また、2回は当てておらず、残りの1回についてはVの誤認であると考えられる。
「足でその腹部及び脇腹等の上半身を複数回蹴る暴行を加え」たことについて
たしかに、Aはこのような暴行をVに加えた。しかし、これは、傘先が当たったことに腹を立てたVが一方的に拳骨で殴りかかって来たという「急迫不正の侵害」に対して、自分がやられないようにという「防衛」の意思をもってしたものであって、拳骨に対して足で応戦するという武器対等の原則にもかなう相当な行為であるから「やむを得ずした」ものといえ、正当防衛(刑法36条1項)が成立するというべきである。
第4設問4
弁護士には、一般に真実義務が課されている(弁護士職務基本規程5条)。しかし、同時に、「依頼者の意思を尊重」する義務を負う(同22条)。さらに、刑事訴訟においては、「最善の弁護活動」に努めるべきことが要求される(同46条)ことから、弁護士は、消極的真実義務を負うにとどまると解するべきである。
もっとも、本件のように、暴行の事実が存在することを知りながら、この事実が存在しないことを主張することは、この消極的真実義務にも違反するものであり、不適切である。
第5設問5
⑫Bの検察官面前調書
弁護人が不同意とした場合、検察官は、刑事訴訟法321条1項2号によって証拠採用できると主張すべきである。
以下321条1項2号の要件を検討する。
まず、Bの供述を録取したものであるから「被告人以外の者」の「供述書」にあたる(同条項柱書)。そして、公判期日の「前の供述」にもあたる(321条1項2号後段)。また、Bは被疑事実を認めていたのに、「分からない」と述べており、異なる事実認定を導くおそれのある供述をしているから、「実質的に異なった供述」にもあたる。さらに、特信情況については、相対的なもので足りると解されるところ、Aの公判廷においては、共犯者であるAが在廷しており、真実の証言をしづらい状況であるといえる。対して、⑫の調書作成時は、取り調べはおだやかになされている。よって、特信情況も認められる。
以上から、⑫の証拠は、伝聞例外にあたり、証拠採用できる。
以上