亀次郎の予備試験記録部屋

令和元年(2019年)の予備試験の受験記録、再現答案、勉強方法についての備忘録

令和元年(2019年) 予備試験 刑事訴訟法 再現答案

 
第1 1勾留が適法といえるためには、逮捕前置主義と適正手続きの保障(憲法31条)の観点から、原則として、先行する逮捕が適法に行われる必要がある。
 この点、たしかに、逮捕前置主義を定めた明文の規定はない。しかし、刑事訴訟法(以下略)207条1項が「前3条において」とし、204条、205条、206条がそれぞれ、逮捕を前提にしていることから、法はかかる原則を認めていると解される。そして、その趣旨は、比較的短期の身体拘束である逮捕を比較的長期の勾留に先行させ、そのそれぞれにおいて裁判官による司法審査を及ぼすことで不当な身体拘束の恐れを可及的に防ぐことにある。
 そこで、本件における逮捕が適法であるかが問題となる。まず、令和元年6月6日午前9時の逮捕は、甲が犯人であるというVの証言や甲発見時の状況等を疎明資料として適法に発付された逮捕令状(199条1項)に基づきなされた逮捕であり。通常逮捕として適法である。
 もっとも、それ以前の身体拘束に違法はないか。PQは令和元年6月6日午前3時頃から甲に任意同行を求めてH警察署で取調べを行っているが、かかる任意同行は適法か。
 この点、任意同行は、相手の真の同意に基づく限りこれを禁止する必要はなく、任意処分(197条1項本文)として許される。しかし、実質的に逮捕と同視できる場合は、令状なき逮捕として違法となると解するべきである。そして、その区別の判断方法は、逮捕は、相手の意思を制圧してその身体を拘束する処分であることから、相手の意思の制圧があったか否かによるべきである。具体的には、任意同行を求めた、時間、場所、相手の対応、任意同行の態様等を総合して客観的に判断する。
 本件では、午前3時頃という一般人であれば、仕事に疲れて家に帰って休みたいと思うのが通常の深夜の時刻であり、また、その路上という場所も、周囲の人々の目があることから仕方なく警察の言う通りにするという判断に傾きやすい場所といえる。そして、甲は、「俺は行かないぞ」といい、パトカーの屋根をつかんで抵抗しており、任意同行に応じないという意思を示している。さらに、同行の態様は、Qが先にパトカーの後部座席に乗り込み、甲の片腕を車内からひっぱり、Pが甲の背中を押して、後部座席の座席中央部に座らせ、その両側にPとQが甲を挟むようにして座ったというのであるから、甲の同行に応じないという意思を制圧する態様であったといえる。
 以上を総合すると、本件の任意同行は、甲の意思を制圧してなされた実質的な逮捕にあたるといえる。よって、逮捕状なき逮捕として違法である。
 
2 先行する逮捕が違法であったとしても、逮捕の違法が軽微であった場合にも常に勾留が違法となると解するのでは、真実発見(1条)を著しく害する。
 そこで、身体拘束時に緊急逮捕(210条1項)の要件を満たし、かつ、203条以下の身体拘束の時間制限内に勾留請求がなされた場合には、その違法は令状主義(憲法33条、35条)を潜脱するような重大な違法はないものとして、勾留は適法と解するべきである。
 本件では、甲は、本件事件が発生した令和元年6月5日午後2時からわずか12時間程しか経っていない近接した時間に、事件現場から8kmしか離れていない近接した場所で、本件事件の被害物品であるVのクレジットカードを所持しており、また、犯人の人着と酷似するのであるから、甲は本件事件の犯人であると推認できる。
 よって、甲には、長期10年を定める窃盗罪(刑法235条)という「長期3年以上」の罪を「犯したと疑うに足りる十分な理由」がみとめられる。よって、緊急逮捕の要件は認められる。
 さらに、違法な身体拘束である本件同行から、勾留請求までは、わずかに34時間ほどしか経過しておらず、これは、203条以下の身体拘束の制限時間のいずれにも抵触しない。
 以上から、勾留は適法である。
以上